ご挨拶
第16回日本臨床睡眠医学会学術集会
組織委員長:河合 真
(スタンフォード大学 睡眠医学センター)
「皆様は睡眠医学をどうしたいですか?」組織委員長:河合 真
(スタンフォード大学 睡眠医学センター)
この問いに対する答えは、皆様それぞれ異なるかと思います。また、中には「そのような大それたことは考えていない」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし最近、私は「睡眠医学という一分野を個人の力で変えることなどできない」と言って逃げることが、徐々に難しくなっています。今日はその理由についてお話しさせていただきます。この気づきこそが、私が今回の組織委員長をお引き受けするに至った大きな理由でもあります。
私が睡眠医学をキャリアの中心に据える決意を固めたのは、2010年に開催された第2回ISMSJ学術集会において、Dr. Sharon KeenanおよびDr. Mary Carskadonと出会ったことがきっかけでした。お二人は、Dr. William Dement、Dr. Christian Guilleminaultと共に過ごしたスタンフォード大学での睡眠医学黎明期の経験を語ってくださいました。終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)や睡眠潜時テストの開発、睡眠技師の育成、そして睡眠専門医のトレーニングに至るまで、睡眠医学を築き上げていく楽しさややりがい、そして仲間と共有する喜びが伝わってきました。
当時の私は、スタンフォード大学に対して「臨床睡眠医学が誕生した場所」という漠然とした印象しか持っていませんでしたが、このお話を聞くうちに、睡眠医学への熱い想いを共有する人々の輪に加わりたいという気持ちが強くなり、神経生理専門医としてのキャリアを一旦中断し、スタンフォード大学の睡眠医学フェローシップに進むことを決意しました。その経験については、「スタンフォード便り」というエッセイにまとめておりますので、ぜひご一読ください。
スタンフォードでのフェローシップ期間中、私は想像以上に多くの学びを得ました。異なるバックグラウンドを持つフェローたちと共に、PSGを中心とした睡眠医学を学びました。その教育方法は現在も引き継がれています。そして今では、教えられる立場から教える立場へと変わり、「この睡眠中の脳波はどう考える?」などと質問を浴びせています。これは、第一世代のレジェンドたちから学んだ「睡眠医学を教える方法」を、私自身が実践しているに他なりません。その後は研究フェローシップを通じて、睡眠医学の研究手法を学びました。臨床と研究の両立というなかなか厳しい道を選びましたが、非常に充実したキャリアを歩んでいます。
さて、ここまでお話ししたことは、あくまで私個人の経験談であり、ちょっとした自慢に過ぎません。しかし、今では自分の経験や知識を私自身のためだけに使うことは許されません。なぜなら睡眠医学の先駆者たちから受け継いだ情熱や教育方法を、次世代に伝えていくことが、私の逃げられない運命であると感じているからです。皆様も、これまでのキャリアの中で、多くの先達や恩師から学び、その知識や情熱を受け継いでこられたことと思います。キャリアを重ねる中で、次第に「与える側」へとシフトしていくことが逃げられない運命と感じる方も多いのではないでしょうか?。
「ISMSJはやっぱり現地参加しないとね」という声を良く聞きます。
それはこの学会が研究成果のみならず、情熱や教育法を共有する場になってきたからです。情熱や教育法は、直接人と関わらなければ伝えることはできません。それを皆様にもぜひ実感していただきたいと思います。
冒頭の問いに戻りますが、皆様はそれぞれ異なるキャリアの段階にいらっしゃると思います。まだまだ学びを深めたい、あるいはご自身の研究成果を共有し、意見を交わしたいとお考えの方も多いでしょう。その過程で「自分の情熱を伝えたい、自分の習得したことを教えたい」と感じた時、その第一歩をこの学会で踏み出していただきたいと思います。
第16回ISMSJ学術集会で、皆様と直接お会いできることを楽しみにしています。