ワークショップ
現地
オンデマンド配信
ワークショップのご案内
第23回日本認知療法・認知行動療法学会では、様々なカテゴリーにおいて、必要な基礎知識の普及と情報の共有を目的とした「ワークショップ」を開催いたします。
このプログラムには分野を問わず多くの方々にご参加いただきたくご案内をいたします。
日本認知療法・認知行動療法学会の会員でない方、また第23回日本認知療法・認知行動療法学会には参加しない方も受講料をお支払いいただければ、受講ができます。
定員に達し次第締め切りとさせていただきます。
開催日 | 受講形式 | 対象ワークショップ(WS) |
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12月3日(日) | 現地会場で受講(第2~5会場) | WS1~8 |
配信期間 2023年12月11日(月)~2024年2月4日(日) | オンデマンド配信の視聴 | WS9~19 |
会場詳細は、日程表でご確認ください。
受講料1セッションあたり2,000円~10,000円
※受講料は、ワークショップの内容や、受講形式により異なります。詳しくは、参加登録ページでご確認ください。
受講資格ワークショップ参加登録をし、受講料のお支払いを済ませた方。
※現地で受講される方は、会場入り口で参加証もしくはワークショップ参加証をご提示ください。
申込方法(1)WEB登録:参加登録ページより受講申し込み可能です。
(2)当日申込:現地開催のワークショップ1~8については、空きがある場合、会期中の12月1日(金)~3日(日)に、総合受付(医師会館 1F)にて受講のお申込みを受付けます。
※オンデマンド配信のワークショップ9~19に関しましては、現地での現金受付は出来ません。WEB登録のみとなります。
受講証明書現地受講者には、ワークショップ終了後、受講証明書をお渡しします。
オンデマンド配信の受講者で、受講証明書を希望される方は、視聴後にダウンロード可能です。
ワークショップ1
「リカバリーを目指す認知療法(CT-R:Recovery-oriented Cognitive Behavioral Therapy)」
12月3日(日)9:00-12:00/第2会場 医師会館 2F 201
オーガナイザー久我 弘典(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
菊池 安希子(武蔵野大学 人間科学部)
徳山 明広(信貴山病院 ハートランドしぎさん)
耕野 敏樹(岡山県精神科医療センター)
大野 裕(大野研究所)
片柳 章子(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
梅本 育恵(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
三田村 康衣(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
林 竜也(医療法人心葉会 林こころのクリニック)
趣旨・狙い
本ワークショップは、リカバリーのための認知療法(CT-R)に対する理解やスキルを身につけるための基本的なコースです。CT-Rは、重篤なメンタルヘルス状態の方を主な対象とし、個人が心の底から望んでいることを同定し、共にポジティブな考え・行動を育むことで、エンパワメントしていく認知療法です。アーロン・ベック先生やポール・グラント先生により20年をかけて開発され、エビデンスが蓄積されてきました。本ワークショップではCT-Rの基本的な考え方や特有の用語について解説し、国内での実践を紹介します。また、グループワーク等を通してCT-Rを国内でどのように活用できるか皆様と考えていきたいと思います。
ワークショップ2
「マインドフルネス認知療法 -脱中心化をどのように進めるか。理論と実践の両面からアプローチする-」
12月3日(日)9:00-12:00/第3会場 医師会館 3F 301
オーガナイザー佐渡 充洋(慶應義塾大学保健管理センター/マインドフルネス&ストレス研究センター)
永岡 麻貴(慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室)
山田 成志(慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室)
二宮 朗(慶應義塾大学医学部 マインドフルネス&ストレス研究センター)
趣旨・狙い
本ワークショップは、マインドフルネス認知療法の中核的な概念である脱中心化を中心に、これを理論と実践の両面からアプローチする構成になっています。
理論的な側面については、マインドフルネス認知療法の効果機序について、脱中心化という概念が生み出されたプロセスを振り返り、脱中心化がどの程度効果に寄与しているか、その実証データを振り返ります。
実践については、マインドフルネス瞑想と、マインドフルネス認知療法の全体の構成について解説したあと、主に中盤以降のセッションに焦点を当て解説と体験を交えながら理解を深めていきます。
マインドフルネスというと、呼吸や身体の感覚に注意を向ける瞑想のイメージが強いかもしれません。しかし中盤以降では、瞑想での観察の対象を、身体の感覚から、思考や気分といったものにも移していき、これを「頭の中の現象」としてありのままに捉える練習をしていきます。そうすることでネガティブな思考が生じてもそれに巻き込まれるのではなく、客観的にありのままに捉える「脱中心化」の力を育んでいくことが可能になります。
このワークショップでは、こうした思考や気分、不快な体験に対してどのように関わっていけば、不安や落ち込み、ストレスなどの不快な体験が軽減されていくか、そのメカニズムについて体験を通して理解できる構成になっています。
さらにInquiryについても解説します。Inquiryとは、参加者がその体験をインストラクターとやりとりするものです。こうしたプロセスを通して、参加者は自身の体験からより深い気づきを得ていくのですが、これが多くのインストラクターにとって難しいものであるのも事実です。今回は、Inquiryの要点について説明したあと、実際のやり取りの事例を提示し、その実際について学んでいただく予定です。
ワークショップ3
「双極(スペクトラム)症のエビデンス精神療法」
12月3日(日)9:00-12:00/第4会場 医師会館 3F 302
オーガナイザー宗 未来(東京歯科大学市川総合病院 精神科)
趣旨・狙い
「気分の上下」という双極症の診断など、間違えようがないほどに簡単そうだが、現実には7割が誤診から始まり、正確な診断には平均8年を要する。人口1〜2%の激レア疾患だし、薬で治す内因性精神疾患なのだから、心理職には遠い存在とも認識されがちだがそれも誤りだ。かつて気分障害の9割はうつ病(単極性)と信じられていたが、現在はその半数が双極症(またはその類縁スペクトラム)と、米国では教科書にも記載される。「人生の半分をうつ状態で過ごす」2型は特に、治療抵抗性うつ病や気分変調症と誤診され、“ストレス環境下で悪化”という一面に目を奪われ、安易に適応障害や非定型うつ病などと見誤られている。しかしうつ病患者では、初診の1〜2割が、自殺企図歴があればその7割が、実は双極症とも報告される。双極症は、薬物療法だけでは、1年で4割、5年で7割という高い再発率が知られる一方、心理療法はそれを半減させることが示されており、特に抗うつ薬では病状を不安定化させるなど、薬物療法に手詰まり感のある“双極症のうつ状態”や“再発予防”には、双極症のための(≠うつ病の)認知行動療法、対人関係・社会リズム療法、家族療法に期待が集まる。本ワークショップでは、診断を見誤らせるピットフォールを押さえながら、各心理療法を症例提示と共に概説する。加えて、「ひどいうつ状態でいくら働きかけてもピクリとも行動が活性化しない!」「問題解決法なんて子供騙しではないか?こんなもので本当に人生の難題が解決するのか?」「わかりあえない相手とのコミュニケーション上の着地点とは?」等、臨床上頭を悩ませる問題の打開策も紹介する。双極症という世界線とその治療戦略を取り入れることで、行き詰まる難治症例に対する治療的ブレークスルーの一助となることを目指す。参考図書は、米国のファーストライン読書療法である「双極症サバイバルガイド(日本評論社)」。
ワークショップ4
「第3世代のCBT ポジティブ手法の活用」
12月3日(日)9:00-12:00/第5会場 医師会館 3F 303
オーガナイザー須賀 英道(龍谷大学短期大学部 社会福祉学科)
趣旨・狙い
最近、メンタル不調を感じる人が増え、現代社会にストレス負荷が多いと言われています。しかし、ストレス対処には自分の状況の受け止め方も関係しています。問題を抱えて行き詰った状況にある時、考え方としての多くは自分の問題点を解決するという問題解決手法に陥ります。義務的イメージから取り組んでいる時に気分の落ち込みや不安も生じます。このリスクマネジメント視点からの問題解決手法は、日本の行政や教育、医療では最優先に用いられています。では、ほかに有効な手段はないのでしょうか?
ウェルビーイング思考です。どのように過ごせば自分の人生・生活が良くなるのかといったイメージングです。まず何が良くなるかに気づくことが必要です。良くなることは1つに限られておらず、状況を肯定的に自己評価することで、次から次へと主観的に拡大意識され、ワクワクした気分の向上に至ります。気分の向上が状況改善のモチベーションへと繋がり、行動変容への結果となるのです。結果への達成感から次へのモチベーションといったサイクルが形成されるのです。こうした状況の改善手法は、ウェルビーイング手法ともいい、メンタル不調の対処や予防に大きな効果があります。ワークショップでは、みなさまの日常生活の中で気軽に取り組める具体的な手法をご紹介し、実践しながら身につけて頂きます。みなさんの対人関係の向上や生き甲斐のある人生への方向付けにもきっと気づきます。是非、ご参加下さい。そして、みなさんの職場、地域、家庭などで応用することによって、その環境がワクワク楽しい状況に大きく変わります。周りの方にもご紹介して広げていきましょう。
ワークショップ5
「今すぐ使えるSCBT!限られた時間でも施行できる効率型認知行動療法(SCBT)研修会」
12月3日(日)13:00-16:00/第2会場 医師会館 2F 201
オーガナイザー梅本 育恵(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
三田村 康衣(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
牧野 みゆき(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
駒沢 あさみ(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
山本 洋美(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
徳山 明広(信貴山病院 ハートランドしぎさん)
久我 弘典(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
趣旨・狙い
本ワークショップでは、限られた時間でも施行できるSCBT(Streamlined Cognitive Behavioral Therapy;効率型認知行動療法)で用いるウェブサイト、動画等を用いて、20分前後で行う短時間のCBTについて紹介します。
CBTを行いたいが、50分もの時間を取ることが難しいと諦めている臨床家の皆様に、短時間で行うSCBTを体験してき、日々の臨床の中で取り入れるヒントを得ていただきたいです。実際にウェブサイトを使用してみますので、可能な方はPCやスマートフォンなどをお持ちください。参加者の皆様には、すぐに使えるSCBTのマテリアルをパウチして差し上げます。
本ワークショップは、令和4年度厚生労働科学研究費補助金「認知行動療法の技法を用いた効率的な精神療法の施行と普及および体制構築に向けた研究(課題番号20GC1016 代表:久我弘典)」において開発された成果物を使用します。
参考資料:認知行動療法マップ:https://cbtmap.jp/
ワークショップ6
「ゲームをする心に対する認知行動的理解とその支援」
12月3日(日)13:00-16:00/第3会場 医師会館 3F 301
登壇者の事情により中止となりました
オーガナイザー横光 健吾(人間環境大学 総合心理学部)
趣旨・狙い
本ワークショップでは、ゲームの問題に直面している人々のその心を認知行動的に理解し、認知行動療法を実施していくうえでのアセスメント、及び支援の実際をお伝えするなかで、ゲームの問題に直面している人々への関わり方の視点を提供することを目的とする。「ゲームのやり過ぎで困る」という人に認知行動療法を実施するには、「ゲームのやり過ぎ」を、「過度にゲームをしている問題」として単純に理解するのではなく、「どのようにゲームをやり過ぎているのか」まで深く理解できるように、そしてそのようなゲームの使用がどのようなきっかけで生起、維持されているのかを理解できるようにする。基本的には、依存症に対する認知行動療法において有効であることが示されてきたリラプス・プリベンションモデルに基づいて、過度のゲームの問題に対しても同様のモデルを用いて理解できるようにする。また、ゲームとの付き合い方という視点から、ハーム・リダクトなゲームについても理解し、ハーム・リダクトなアプローチに関するクライエントとの共有方法、及びその支援の実際も理解する。本ワークショップ参加者には、ゲームに対する認知行動的な理解をしていただきながら、これまでにワークショップ講師(とその仲間が)考え、実践してきた、ゲーム欲求への対処方法、直接的なゲームを減らす方法、ゲームの代替行動、ハーム・リダクトなゲームの方法などについて学び、明日からの支援の参考にしていただけると幸いである。
ワークショップ7
「高等学校で行う認知行動療法」
12月3日(日)13:00-16:00/第4会場 医師会館 3F 302
オーガナイザー尾形 明子(広島大学大学院 人間社会科学研究科)
神原 広平(同志社大学 心理学部 心理学研究科)
吉良 悠吾(比治山大学 現代文化学部)
趣旨・狙い
学校における心理的支援は,問題を抱えた子どもに対する治療的な支援のみならず,全ての子どもに対する予防的な支援や成長促進を目的とした支援も重要となります。しかし,子どもの抱える心理的問題は増えるにもかかわらず,中・高等学校では,小学校に比べて,予防的・開発的な心理的支援が行われることが少ないようです。学校で認知行動療法を行うためには,効果が実証されている介入内容であることはもちろん,学校という現場で実施可能な方法をとることや多様な子どもに対応する工夫も必要となると考えられます。本ワークショップでは,中学校,高等学校,定時制高校や通信制高校における学級集団を対象とした認知行動療法について取り上げます。具体的な内容としては,学校で集団を対象とした認知行動療法を実施する際のアセスメントや効果測定,プログラムの構成の仕方,指導案や教材,ワークシートの作成における工夫について紹介します。また,学校で実践をするにあたり,プログラムを導入する際の学校との連携の方法や,学校の教員の役割の重要性についても皆さんと考えたいと思います。そして,プログラムの一部を模擬授業というかたちで皆さんに体験していただこうと思います。
ワークショップ8
「ソクラテスの質問法」
12月3日(日)13:00-16:00/第5会場 医師会館 3F 303
オーガナイザー若井 貴史(哲学心理研究所/長岡病院/認知療法研究所)
趣旨・狙い
認知療法・認知行動療法において、患者の認知を変えるためには、特有の質問をすることが大切であるとされている。この質問は、古代ギリシャの哲学者に因んで、ソクラテスの質問法と呼ばれている。ソクラテスの質問法の利点について、Beck et al(. 1979)は、治療者がいない時でも患者がこの種の質問を自分自身で行うことができること、つまり、患者が自問自答できるようになることにあると指摘している。
ところが、このソクラテスの質問法について、臨床的・実践的な観点から詳細に論じられている論文や著書は少ないのが現状である。そこで本ワークショップでは、若井(2014)で類型化した以下の6つの質問を中心に取り上げる。
①捨象情報を問う
②根拠を問う
③例外を問う
④程度を問う
⑤差を問う
⑥別の立場を問う
これは問う対象に応じて整理した私案であり、ソクラテスの質問法の基本技にあたると考えているものである。これらを詳細に解説したい。そのうえで、具体的なモデルケースをとおして、これらの基本技の形をしっかり習得していただくことを目指す。
若井(2022)で触れたプラトンの原典を紹介し、ソクラテスが実際にどのような対話をしていたかを確認したり、ソクラテスの質問法の弁証法的・認識論的意義について解説したりすることも検討している。ただし、時間の都合でこれらに触れられないかもしれない。関心のある方は若井(2022)を参照していただきたい。
本ワークショップの対象者としては、初学者から中級者レベルまでを想定している。
<参考文献>
Beck, A. T., Rush, A. J., Shaw, B. F., & Emery, G. 1979 Cognitive therapy of depression. Guilford Press. 坂野雄二(監訳)1992 うつ病の認知療法 岩崎学術出版社
若井貴史 2014 三浦つとむの認識論から見る認知療法の作用機序『季報唯物論研究』第126号 pp.106-111
若井貴史 2022 弁証法・認識論から説く認知行動療法入門(3)『自由学藝』第3号 大垣書店 pp.139-159
ワークショップ9
「複雑性PTSDに対する心理療法:STAIR Narrative Therapyの基礎を学ぶ」
オンデマンド配信 2023年12月11日(月)〜2024年2月4日(日)/所要:90分
オーガナイザー金 吉晴(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
丹羽 まどか(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 行動医学研究部)
趣旨・狙い
複雑性PTSDは、虐待やドメスティック・バイオレンスなどのトラウマ体験をきっかけとして発症し、PTSDの主要症状に加えて、感情調整や対人関係に困難がある等の症状を伴い、日常生活や社会生活上に大きな支障をきたす精神疾患である。複雑性PTSDに対する最適な治療法については、国際的に検証が進められている段階にあるが、この疾患の多様な症状に対応した治療が有望であると報告されている。該当する治療として、STAIR Narrative Therapyという心理療法が開発されており、虐待を経験した成人PTSDを対象とした複数のランダム化比較試験でその有効性が確認されている。日本の臨床現場での少数例の前後比較試験でも、虐待関連の複雑性PTSDに対して海外と同等の治療結果が確認された。
STAIR Narrative Therapyは、米国のMarylene Cloitre博士らが児童期虐待の成人サバイバーの治療のために開発した心理療法であり、現在の感情調整や対人関係の困難さに対処するスキルトレーニング(Skills Training in Affective and Interpersonal Regulation;STAIR)とトラウマに焦点を当てた治療(Narrative Therapy)を組み合わせた治療法である。治療の枠組みや技法は認知行動療法に準拠しており、全16-18回で構成される。近年では、虐待に限らず様々なトラウマに適用されている。
この治療については過去に2度Cloitre博士を招聘して2日間ワークショップを実施しており、今年の2〜3月には米国とオンラインでつないだ公式ワークショップを開催した。しかしながらトレーニング機会が限られているのが現状であり、継続的なトレーニング体制整備に取り組んでいるところである。本ワークショップでは、この治療の治療原理や介入内容のエッセンスを学んでいただくことで、トラウマを抱えた方の治療を手の届くものにしていただき、日常臨床に生かしていただくことをねらいとする。特にSTAIRの部分は、クライエントのニーズに基づいて日常臨床に取り入れやすい内容になっているため、こちらを中心的に扱う予定である。なお参考文献として挙げたのは、この治療の理論的・実証的背景や各セッションの治療内容の詳細がまとめられているテキストである。
<参考文献>
「児童期虐待を生き延びた人々の治療-中断された人生のための精神療法」金吉晴(監訳)星和書店
ワークショップ10
「アクセプタンス・コミットメント・セラピー」
オンデマンド配信 2023年12月11日(月)〜2024年2月4日(日)/所要:90分
オーガナイザー大月 友(早稲田大学人間科学学術院)
趣旨・狙い
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、行動分析学や関係フレーム理論を基盤とした心理療法です。その一方で、行動分析学や関係フレーム理論にあまり“精通していなくても”、感覚的(体験的)に理解しやすいようにモデル化されています(もちろん、その功罪はありますし、基盤となる理論に“精通している”に越したことはありません!)。ただし、不安や落ち込みなどの不快な私的事象(本人にしか観察できない思考や気分、感情、身体感覚、記憶、イメージなど)に対して、それらをコントロールする(下げる・なくす)ことを“目指さない”という考え方をするため、一般的な認知行動療法(CBT)に慣れている方は、少し(かなり?)違和感を持たれるかもしれません。このワークショップでは、そんなACT を「気にはなっているけど詳しくは分からない」という方や、「書籍は読んだけど、改めて基本をおさえておきたい」という方向けに、ACTにおける問題理解の仕方(心理的柔軟性モデル)や実践法を紹介します。特に、今回の講座では、セラピーや研修会などで実際に講師が使用している、動画コンテンツ(心理教育、エクササイズ、メタファーのクライエント向けアニメーション動画)を使いながら、ACTをわかりやすく紹介していきます。
ワークショップ11
「学校に行けない「からだ」 〜不登校の子ども達との向き合い方〜」
オンデマンド配信 2023年12月11日(月)〜2024年2月4日(日)/所要:60分
オーガナイザー梅本 育恵(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
諸富 祥彦(明治大学 文学部)
三田村 康衣(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
趣旨・狙い
不登校の理解・対応のポイントは、子どもの「気持ち」ではなく、「からだ」への着目!
スクールカウンセラー、児童相談所のスタッフや教員のコンサルテーション歴、40年の講師・諸富祥彦が、これまでの経験を通して不登校を「体が重たくなって動きたくても動けない体験」と捉えて考える「不登校体験の本質」、不登校の子どもへの関わり方、不登校の予防法についてお話します。
身も心も重くなっている子どもを軽くするような支援者になるにはどうすればいいのか、精神科医の三田村康衣と公認心理師の梅本育恵が講師に質問しながら進めていきます。
〜講師プロフィール〜
諸富祥彦 福岡県生まれ
1992年筑波大学大学院博士課程修了。英国イーストアングリア大学、米国トランスパーソナル心理学研究所客員研究員、千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士、臨床心理士、上級教育カウンセラー、学会認定カウンセラー。日本カウンセリング学会理事、日本生徒指導学会理事、教師を支える会代表を務めている。「教師が悩んだ時に読む本」「カール・ロジャーズ カウンセリングの原点」他、著作単著・編著多数。民放、NHK問わず、テレビ、ラジオ出演多数。
※本ワークショップはオンデマンド動画配信となっております。
<参考文献>
諸富祥彦:不登校体験の本質と予防・対応 学校に行けない「からだ」、図書文化、2022 諸富祥彦のホームページ https://morotomi.net/
ワークショップ12
「子どもの感情障害に対する認知行動療法の統一プロトコル」
オンデマンド配信 2023年12月11日(月)〜2024年2月4日(日)/所要:90分
オーガナイザー藤里 紘子(関西大学社会学部 社会学科)
加藤 典子(国立精神・神経医療研究センター)
趣旨・狙い
本ワークショップでは、子どもの感情障害に対する統一プロトコルの概要について簡単に紹介した後、子どもへの介入において難しいと言われることが多い以下の2つの介入要素について詳細に説明する。
1つめは、子どもに自分自身の感情反応を認知行動モデルで振り返り、悪循環に気づいてもらう方法である。きっかけに対する感情反応とその短期的・長期的結果について、子どもと一緒にどのように整理していくのか、ワークシートを用いて例を挙げながら解説する。また、子どもの感情反応に対する親の対応について、同様に認知行動モデルで把握するための枠組みも併せて紹介する。
2つめは、認知に対する介入である。特に小学生等、低年齢の子どもたちにおいて、認知面への介入は困難であるという声が聞かれることが多いため、子どもを対象とする場合に、どのように自動思考を同定し、再評価していくのか、ワークシートを用いて例を挙げながら解説する。
本ワークショップは、統一プロトコルについて詳細に学ぶというよりも、統一プロトコルを題材にして、子どもに対して認知行動療法を行う際のtipsを提供することを目的とする。
※子どもの感情障害に対する統一プロトコルについては、子どもの認知行動療法研究会のHP(https://cbtyouthjapan.wixsite.com/up-ca)を参照のこと。
<参考文献>
・ジル・エレンリッチ-メイ他(著)藤里紘子・堀越勝・伊藤正哉・加藤典子(訳)(2020).子どものための感情探偵プログラム ワークブック 福村出版
・ ジル・エレンリッチ-メイ他(著)藤里紘子・堀越勝・伊藤正哉・加藤典子(訳)(2020).子どものための感情探偵プログラム セラピストガイド 福村出版
・ジル・エレンリッチ-メイ他(著)藤里紘子・堀越勝・伊藤正哉・加藤典子(訳)(2021).10代のための感情を味方につけるプログラム ワークブック 福村出版
・ジル・エレンリッチ-メイ他(著)藤里紘子・堀越勝・伊藤正哉・加藤典子(訳)(2021).10代のための感情を味方につけるプログラム セラピストガイド 福村出版
ワークショップ13
「遷延性悲嘆症の概念と治療」
オンデマンド配信 2023年12月11日(月)〜2024年2月4日(日)/所要:90分
オーガナイザー中島 聡美(武蔵野大学 人間学部 人間科学科)
趣旨・狙い
大切な人を喪ったことによる悲嘆は、多くの場合、時間の経過とともに自然に和らいでいくことが多い。しかし、自死や事故、犯罪被害などの暴力的な死別や突然の死別などの場合、急性期の強い悲嘆が長期に続き、遺族の苦痛が著しく、社会生活機能に支障をきたす場合がある。このような悲嘆は複雑性悲嘆(complicated grief)や外傷性悲嘆(traumatic grief)と呼ばれてきたが、ICD-11(2019)やDSM-5-TR(2022)において遷延性悲嘆症(prolonged grief disorder)の呼称で、精神障害に位置付けられるようになった。遷延性悲嘆症は、主観的健康の不良や、高血圧,心疾患、癌,頭痛,流感の罹患率の増大、抑うつ、自殺念慮の増加など心身の健康への影響およびQOLの低下と関連している(Prigerson et al., 1997; Otto et al., 2003; Boelen et al., 2007)ことが報告されており、治療が必要な病態である。
遷延性悲嘆症の治療では、現在のところ薬物療法の有効性についてのエビデンスは不十分であり、死別に向きあう曝露の要素を含む認知行動療法が有効とされている(Wittouck et al.,2011; Johannsen et al.,2019)。しかし、臨床現場でこのような遷延性悲嘆症の認知行動療法を行うためには、まず、悲嘆や遺族の心理を理解し、基本的なグリーフケアが行えることが必要である。
本ワークショップでは、①通常の悲嘆の概念とプロセス、②遷延性悲嘆症の概念、診断基準、③遺族への基本的なケア、④遷延性悲嘆症の心理療法についてとりあげる。遷延性悲嘆症の治療では、特に、米国のShearら(2005、2014)が開発したprolonged grief disorder therapy(PGDT)のプログラムについて詳しく紹介する。PGDTは、曝露療法、対人関係療法などを取り入れた構造化された治療であり、米国の遺族を対象にした無作為化比較試験で有効性が報告されている(Shear, et al., 2005; 2014)。演者らは日本の遷延性悲嘆症の遺族にPGDTを適応し、予備的研究において有効性を得ており、今後日本の心理臨床での普及を目指している。
<参考文献>
1)中島聡美:遷延性悲嘆症.三村將編集:講座精神疾患の臨床 3 不安または恐怖関連症群 強迫症ストレス関連症群 パーソナリティ症.中山書店,pp261-274, 2021.
2)Shear MK, et al.: Treatment of complicated grief in elderly persons: a randomized clinical trial. JAMA Psychiatry 2014; 71(11): 1287-1295.
ワークショップ14
「Clark & Wellsモデルに基づく社交不安症の認知療法」
オンデマンド配信 2023年12月11日(月)〜2024年2月4日(日)/所要:90分
オーガナイザー吉永 尚紀(宮崎大学医学部 看護学科)
趣旨・狙い
このワークショップでは、ClarkとWellsが提唱した認知モデルに基づく社交不安の認知療法について扱う。社交不安症に対する認知療法は、これまで国内外で実施されたランダム化比較試験ならびにネットワークメタ解析により、その有効性が示されてきた(e.g. Mayo-Wilson et al. Lancet Psychiatry. 2014;1(5):36876; Yoshinaga et al. Psychotherapy and Psychosomatics. 2016;85(4):208-17)。また、英国(2013)ならびに日本(2021)における診療ガイドラインでは、社交不安症に認知療法・認知行動療法を実施する際には、Clark & WellsモデルまたはHeimbergモデルに基づくことを推奨している。さらに、日本では2016年度から社交不安症に対する認知療法・認知行動療法が診療報酬化されており、その算定要件としてClark & Wellsモデルに基づく治療者用マニュアルに従うことが求められている(厚生労働省HP上で公開)。
本ワークショップではまず、社交不安症の臨床的な特徴とClark & Wellsモデルに基づく認知療法のエビデンスを紹介する。つぎに、社交不安のアセスメントならびに心理学的な維持要因(認知モデル)について解説する。最後に、プロトコルの全体像を紹介した上で、中核をなすいくつかの技法(安全行動と自己注目の検討、ビデオフィードバック、注意トレーニング、行動実験)について概説する。本ワークショップは録画配信(一方向のレクチャー)となるが、デモンストレーションビデオなどを提示することにより、参加者が実際の面接場面での活用法をイメージできるよう工夫をする。ワークショップの終盤には、COVID-19の影響下における行動実験の工夫や、学びをさらに深めるための国内外のリソースについても紹介したい。
<参考文献>
・吉永尚紀,清水栄司.社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル.厚生労働省ホームページ.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kokoro/index.html
・デイビット・M・クラーク,アンケ・エーラーズ著(丹野義彦 編集/監訳).対人恐怖とPTSDへの認知行動療法.星和書店.
ワークショップ15
「コンパッション・フォーカスト・セラピー」
オンデマンド配信 2023年12月11日(月)〜2024年2月4日(日)/所要:90分
オーガナイザー浅野 憲一(目白大学)
寺島 瞳(東京経済大学)
川﨑 直樹(日本女子大学)
趣旨・狙い
コンパッション・フォーカスト・セラピーは、恥や自己批判といった心理的問題を解決するために、イギリスのPaul Gilbert博士によって開発された心理療法である。統合的な心理療法であり、進化心理学、社会心理学、発達心理学、仏教心理学、神経科学などから影響を受けている。しかし、用いられている技法の多くは認知行動療法の知見が援用されていることから、International Journal of Cognitive Therapy誌にて特集号が組まれたり、CBT Distinctive FeaturesやA Self-Practice/Self-Reflection Workbook for TherapistsといったCBTの書籍シリーズで取り上げられるようになっている。
コンパッション・フォーカスト・セラピーでは、恥や自己批判に苦しむ人々の心理的な苦しみは、安心や安全といった感情の得がたさによって生じていると考える。安心や安全といった感情の背景に特定の情動制御システムの存在が明らかになっており、愛着システムや気持ちを落ち着かせる能力、幸せを感じるといった能力と情動制御システムが関連することが示唆されている。
そのため、コンパッション・フォーカスト・セラピーでは、安心や安全の背景にある情動制御システムにアクセスすることが難しい人々は、高い恥と自己批判を経験し、その感情と関連した脅威の情動制御システムが働いてしまう状態に陥っていると仮定する。そして治療では、コンパッション(思いやり、慈悲)を用いて、その問題を解決し、様々な心理的問題の改善を目指す。
コンパッション・フォーカスト・セラピーを実践するにあたり、Kolts et al.(2016)はその治療要素を、慈悲的な理解、マインドフルな気づき、慈悲の実践、治療的関係性の4つの側面があるとし、これらが多層的に作用するとしている。慈悲的な理解は、Not Your Faultというメッセージを神経科学や進化心理学の知見を援用しながら心理教育していく。マインドフルな気づきの側面は、様々なエクササイズを通してクライエントが自分自身の注意、思考、感情、行動、身体といった側面に気づきを高める支援していくことを指す。慈悲の実践では、イメージエクササイズや行動実験を通して、コンパッションを高めるための様々な取り組みをしていく。最後に、治療的関係性であるが、治療者はコンパッションを持った態度でクライエントを支援し、クライエントが自分の問題を探求し、変化を起こしていくための安全基地として機能する必要がある。加えて、ここまで述べた慈悲的な理解、マインドフルな気づき、慈悲の実践を、治療者自身が治療内で示すことでモデルとなることが求められる。本ワークショップでは、講師らが取り組んでいる個別形式でのコンパッション・フォーカスト・セラピーを紹介し、コンパッション・フォーカスト・セラピーの基本的な考え方や主要なエクササイズを紹介する。
ワークショップ16
「成人期ADHDの実行機能モデルに基づいた認知行動療法」
オンデマンド配信 2023年12月11日(月)〜2024年2月4日(日)/所要:90分
オーガナイザー中島 美鈴(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター)
趣旨・狙い
注意欠如・多動症(Attention-Deficit / hyperactivity Disorder; ADHD)の最も有力な原因仮説のひとつは、実行機能障害仮説である。Brown(1996)によれば、実行機能の中でも「抑制」を支える前頭前野などの関連する脳の成熟が遅れている状態がADHDであるとされる。実行機能の定義やモデルには諸説あるが、実際のADHD患者の支援に用いやすいものには、下位概念が行動レベルで記述されているものであろう。たとえば、成人期のADHDの就労を支援する独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター職業センター(2022)では、作業管理能力のアセスメントにおいて実行機能の下位概念(「抑制」「シフト」「情緒のコントロール」「開始」「ワーキングメモリ」「計画・組織化」「道具の整理」「タスクモニタ」「セルフモニタ」)に注目している。また、Zelazoら(1997)の時間軸に沿った実行機能モデルも,ADHD患者にとって作業過程のどこでつまずいているかを明らかにできるため有用であると考えられる。
本ワークショップの前半では、ADHD患者が日常生活で抱く困りごとについて,時間軸に沿った実行機能モデルを用いて、「どのプロセスでつまずいているのか」を患者と共に分析し、対処法を検討し、実践する個別の認知行動療法を紹介する。後半は、架空事例を用いて、実践的に学べる場を提供する。実行機能モデルを用いることで、患者自身が自分のつまずき方を理解する枠組みを学び、腑に落ちる感覚を持ちながらさまざまな対処行動を計画することができる体験をしていただきたい。
<参考文献>
Brown, T.E. (1996). Attention-Deficit Disorder Scales: Manual. San Antonio, TX: The Psychological Corporation. 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター職業センター.(2022).発達障害者のワークシステム・サポートプログラム在職中又は休職中の発達障害者に対する作業管理支援.実践報告書,39.
https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/practice39.html
Zelazo, P. D., Carter, A., Reznick, J. S., Frye, D. (1997). Early Development of Executive Function: A Problem Solving Framework. Review of General Psychology, 1, 198-226. https://doi.org/10.1037/1089-2680.1.2.198
ワークショップ17
「慢性痛の認知行動療法」
オンデマンド配信 2023年12月11日(月)〜2024年2月4日(日)/所要:60分
オーガナイザー細越 寛樹(関西大学 社会学部 社会学科心理学専攻)
堀越 勝(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
福森 崇貴(徳島大学大学院 社会産業理工学研究部)
岩佐 和典(大阪公立大学大学院 現代システム科学研究科)
趣旨・狙い
認知行動療法(CBT)は,うつや不安などの精神疾患のみならず,糖尿病や心疾患などの慢性疾患にも有効とされ,慢性痛に関しても多くのエビデンスが認められている。しかし,日本における慢性痛のCBT(CBT-CP)の実施体制は十分に整っているとはいえず,我が国の最新ガイドライン(慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ,2021)でも早急な実施体制の整備が強く求められている。そこで日本でもCBT-CPを普及させるべく,本ワークショップではその入門編として,基本的な考え方や治療効果のエビデンス,具体的な介入手法およびプログラム例と,それを適用した事例を紹介したい。
慢性痛は,組織損傷の治癒に必要な通常の期間(一般的に3〜6か月以上)を越えてもなお持続する痛みとされる。日本人の慢性痛の有病率は22.5%と高く(矢吹ら,2012),主観的な自覚症状の1〜2位は腰痛と肩こりであり(厚生労働省,2020),慢性痛は日本の国民病といえる。慢性痛の問題は,患者自身の苦痛やQoLの低下だけでなく,医療費の増大や労働時間の損失による多大な社会経済的損失も引き起こしており(Inoue, 2015),早急かつ有効な対応が求められている。
慢性痛を捉える代表的なモデルに痛みの多層モデルがあり,侵害受容や痛みといった身体的反応の層に,苦悩と痛み行動の層を加えて,全体を痛み体験としている(Loeser, 1982)。苦悩は慢性痛に対する認知的反応(破局的思考など)や感情的反応(不安や恐怖や怒りなど),痛み行動はそれに伴って発生・強化されてきた行動(活動の回避,痛みの訴え,過度の服薬など)である。これはそのまま認知行動モデルでの理解が可能であり,痛みに付随して生じた認知・感情・行動的反応が悪循環を形成し,慢性痛が維持・強化されていると考えられる。
CBT-CPの有効性はコクラン・レビューでも認められている(Williams et al., 2020)。これまでに海外で行われてきたCBT-CPは,プログラムごとに様々な介入技法を採用しているが,演者らはその中で頻用されていたリラクセーション,アクティビティ・ペーシング,認知再構成の3つに着目し,全8回のCBT-CPプログラムを開発した。パイロット研究の結果は良好であり(Hosogoshi et al., 2020),その患者用テキストと実施者用マニュアルを2022年2月に無償公開して(https://jacc-pain.wixsite.com/sanka),現在は無作為化比較試験を進めている。
演者らのCBT-CPプログラムは,痛みの除去よりも,Qolの向上を主目的としている。アクティビティ・ペーシングを中核とし,特定の活動に対する活動と休息の時間を継続時間や具体的目標に従って切り替えるという枠組みの中で,行動活性化や行動実験なども柔軟に組み込めるものとなっている。また,アクティビティ・ペーシングで身に着けた適応的な行動パターンを阻害する認知を同定し,それに対して認知再構成を行っている。
当日は,CBT-CPプログラムを実施した事例も紹介しながら,これらの技法の使用法について解説していきたい。
ワークショップ18
「うつの行動活性化 −理論と実践−」
オンデマンド配信 2023年12月11日(月)〜2024年2月4日(日)/所要:90分
オーガナイザー岡本 泰昌(広島大学大学院医系科学研究科 精神神経医科学)
趣旨・狙い
行動活性化は、比較的古くからあるうつ病に対する行動的なアプローチで、1978年にLewinsohnらによって、その先駆的な仕事が報告されました。彼らは、うつ病になると正の強化を受ける機会が減少することに注目し、正の強化を受ける機会を増やすように快活動質問票を用いて快活動を増やすことや、正の強化を受けられるような社会的スキルを身につける治療プログラムを作成しました。その後、うつ病に対する認知療法が広まるにつれ、治療の早い段階で、不合理な信念に立ち向かう際の小さな行動実験として行動活性化を用いるといった認知行動療法の複合的なパッケージの中の技法の一つとして行動活性化が用いられるようになってきました。
これに対して、1996年に行われた認知行動療法の要因分析の結果、行動活性化単独でうつ病に対して高い治療効果をもつことが明らかにされ、2000年代に入って行動活性化を中心とした新たな治療プログラムの開発が行われることになりました。その中では、うつ病患者は、正の強化の主たる供給源を失っただけでなく、嫌悪的状況の受動的回避が原因で非活動的になっているとの考えから、回避を特定し克服するための技法が追加されました。また、楽しい気分を高めるような行動を選ぶというよりは、「人生の中で価値をおいていること」を達成するための行動を活性化することに力点が置かれました。実証的な研究結果が示されたこともあって、新しい世代の認知行動療法として着目されています。
本ワークショップでは、うつ病の行動活性化に特徴的な行動原理と理論的背景を概説した後で、快活動を標的とした従来の行動活性化だけでなく、受動的回避を標的とした新しい行動活性化についても、基本テクニックと実践のポイントに関して学んで頂ければと思います。簡便な快活動を標的とした行動活性化を行い、十分な効果が得られない場合に、もっと個別化した受動的回避を標的とした行動活性化を行うことで、臨床場面での効率的な治療提供が可能になると考えられます。行動活性化は、うつ病を克服するための強力な方法です。
また、行動活性化は単純な原理や構造であることから、容易に訓練しやすいため、様々な臨床場面で広く普及できる可能性を持っています。本ワークショップが、多くの治療者にとって、行動活性化の的確な理解を促し、うつに苦しむ方々の治療の一助となることを心より期待しています。
<参考文献>
岡本泰昌監訳,行動活性化,明石書店,2015
大野裕,岡本泰昌監訳,うつを克服するための行動活性化練習帳 -認知行動療法の新しい技法-,創元社,2012
大原健士郎監訳,うつのセルフ・コントロール,創元社,1993
ワークショップ19
「【特別ワークショップ】Tips を伝授!若手〜中堅セラピスト・多職種・学生向けワークショップ:認知行動療法の学び方」
オンデマンド配信 2023年12月11日(月)〜2024年2月4日(日)/所要:90分
オーガナイザー松岡 潤(おぐメンタルクリニック/東大宮メンタルクリニック)
渋谷 直史(酒田駅前メンタルクリニック)
伊藤 正哉(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター 研究開発部)
荒木 睦美(ごきそカウンセリングオフィス)
松村 麻衣子(大阪信愛学院大学 看護学部)
矢野 健一(東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部)
利重 裕子(名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
鋪野 紀好(千葉大学大学院医学研究院 地域医療教育学/千葉大学医学部附属病院 総合診療科)
趣旨・狙い
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)を学ぼうとしている、あるいは既に学び始めた治療者は日本全国いたるところにいます.またCBTは精神科をはじめとする様々な診療科や、多職種で施行することのできる精神療法の1つです.しかし、CBTを始めるとなると「教材や機材は何を準備したらよいのか」「研修の情報を得る方法がわからない」「どのようにスーパービジョンを受けるのがよいのか」など大小様々な疑問が山積みであるにも関わらず、このような疑問に答えてくれる教科書は多くありません.おそらくほとんどの治療者は、人づてに聞いた学習方法を真似したり、学会のシンポジウム、精神療法の雑誌の特集やtwitterなどのSNSを見たりして、自己流の勉強方法を編み出しているのだと思います.あるいは、そうした研鑽方法を編みだせずに勉強が頓挫した人もいるかもしれません.また、周囲にCBTを行っている人がいないために、所属施設を超えた治療者同士のコネクションを構築しようとして四苦八苦したり、後進を育てることに頭を悩ませたりする人もいるでしょう.
本ワークショップの対象者は、上記のような困りごと・疑問を抱えたことのあるすべてのCBT治療者、これからCBTの勉強を始めようとしている明日の治療者、CBTを実装・普及しようとしている中堅治療者などです.逐語録作成時の工夫、スーパービジョンの受け方、勉強会の運営、後進への教育方法など、教科書には載っていないTipsを扱います.講師は精神科領域の医師、心理師、看護師、作業療法士や、医学教育学・総合診療科をフィールドとする医師が務めます.講師1名あたりの発表時間を8-10分程度と短めに設定しているので、ちょっとした移動時間にも(時には早送りしながら)気軽に聴講できます.また最後までこのワークショップを聴いてくれた参加者にはお土産企画も準備しています.
本ワークショップの目的は、再現性の高いCBTの学び方のTipsを記憶に残りやすく紹介することです.このワークショップを受講することによって、受講した方々の学習効率がアップしたり、CBTに取り組もうという継続的なモチベーションを持てたり、仲間との繋がり方や後進育成に自信を持つきっかけになったという方が増えることを期待します.
このワークショップは2022年度に実施されたワークショップの再放映であるため、一部最新の情報に追いついていない内容が含まれる場合があることをご了承ください.
<参考文献>
松岡 潤.若手精神科医の認知行動療法の継続的な学び方と学習のネットワーク構築方法について.最新精神医学 27(1), 29-33, 2022