第10回日本婦人科ロボット手術学会

会長挨拶

第10回日本婦人科ロボット手術学会
会長 小阪 謙三
静岡県立病院機構 静岡県立総合病院
女性・小児センター長 産婦人科部長

 ご挨拶のはじめに、今回の学会を「完全WEB方式」に急遽変更させて頂きますことをお知らせ致します。

 昨年10月以降のコロナ禍沈静化を受け年始にはなお現地を含めたハイブリッド開催を予定しておりましたが、このところの急峻なオミクロン株の感染拡大を受けこのような形に決定致しました。現地開催を行うことによって健康被害の出る可能性が否定できないことはもちろん、沖縄県の状況などを拝見しますと無症状でも感染あるいは濃厚接触のため医療従事者が隔離目的で出勤できず診療に支障をきたすケースが稀ではないことが明らかとなって参りました。医療系の学会として、そのような原因となることは許されないと考えました。

 先生方には急な予定変更をお願いすることとなり大変心苦しいかぎりですが、何卒ご高配頂けますようよろしくお願い申し上げます。

 また、プログラム・抄録集の校了直前での突然の変更となりますので、今後内容に変更が生じる可能性が否定できません。変更に関しましては大変心苦しいのですがホームページをご確認頂くしか方法がないかと考えております。大変なご迷惑をお掛けして申し訳ございませんが、ご了承頂けますよう何卒よろしくお願い致します。

 さて、産婦人科領域におけるロボット支援下手術は、2018年の子宮体癌および良性子宮腫瘍に対する子宮摘出術に続き2020年には骨盤臓器脱に対する仙骨膣固定術も保険収載となりました。それまでも臨床試験・病院負担・自費診療でロボット手術が行われてきましたが、やはりこの保険収載によって多くの産婦人科医がロボット手術に取り組み始め普及が加速しました。この際、最も注意を払わなければならないのは言うまでもなく患者さんの安全です。現時点で患者さんに対する明らかなベネフィットを示すエビデンスのない婦人科領域のロボット手術の導入・使用によって事故発生頻度が高まることは厳に避けなければなりません。事故を未然に防ぐためには、導入前の十分な準備、プロクター制度を利用した導入あるいは既施行施設で指導できる人材を育成したうえでの導入施設への派遣、そして安全を最重要視した1例1例の施行です。そのために、私たちはプロクター制度を十分に利用するとともに、これまでに起こったインシデント・アクシデントを改めて学び直しよく知ることが極めて大切と考えます。ロボット手術は優れた面もたくさんある手術ですが、一方で独自の特徴を有しており、開腹手術・腹腔鏡下手術ではありえなかったようなインシデント・アクシデントひいては事故が起こり得る手術です。これらロボット手術の特徴、実際に起こったインシデント・アクシデントをすべての婦人科ロボットSurgeonが熟知することが極めて重要と考えます。

 術式とそのTIPS・成績などに関しては、良性腫瘍、子宮体癌、仙骨膣固定術の経験が蓄積されている段階だと思います。これらを「婦人科robotic surgeryの現在地」としてしっかり議論したいと思います。

 また、ロボット手術はまださほど古いジャンルではありません。今後の展開が大きく期待され将来性が極めて高い分野であると考えられます。

 近未来には、広汎子宮全摘術、傍大動脈リンパ節郭清術の普及・保険収載が期待されます。また、Medicaroid社のhinotoriTMは婦人科への保険承認拡大が見込まれており、国産ではRiverfield社、朝日サージカルロボティクス(旧A-traction)社の新しい機械もこれに続く可能性が大いにあります。海外でも多くの企業が新規手術ロボットの開発・販売に取り組んでいます。耳鼻科領域では悪性腫瘍のOverall Survivalの改善が示唆されるデータが集積されており、新しい機器の導入ががん診療に大きなインパクトを与え得ることを示しています。

 また社会全体の在り方にも大きな影響を与えるAI技術、deep learningはロボットに親和性が高く、当然婦人科領域のロボット手術にも影響を与えると考えられます。他科領域では既に、AIを用いて手術中リアルタイムに解剖構造の教示や安全域・危険域を提示する技術が実用レベルに近づいており、手術技能評価にもAIを使用する試みが進んでいます。

 さらには、医師偏在および昨年からのコロナ禍と近々適応の広がる働き方改革の影響もあり、遠隔教育さらには遠隔手術も将来的に行われると考えられますが、昨今の5Gの進歩で技術的問題はクリアされようとしています。

 そして、AIやdeep learningの導入の先には手術の「自動化」が想定されます。勿論すぐに到来する訳ではないと思いますが、現在修練中の若い先生方がベテランになる頃には少なくとも一部は実現している可能性は高いのではないかと想像されます。実際、縫合などに関しては、データ動画をAIが特有のアルゴリズムに従って自己学習しロボットアームが再現するといった試みが既にインターネット上でも公開されています。未来のことを話すと鬼が笑うとは申しますが、鬼に笑われつつこのような部分についても少し想像を逞しくしてみたいと思っています。

 今回学会を開催させて頂く予定であった静岡市は県庁所在地ですが、医学部がないため先生方にはあまり馴染みがないかと思います。歴史的には、今川家、徳川家にゆかりが深く、家康公が8歳から19歳に至る11年間を今川家の人質として過ごされた臨済寺、元服された浅間神社が市内中心部にございます。また、将軍退位後、晩年に大御所政治を行われたのもこの地で、駿府城で亡くなられ久能山東照宮に葬られました。後者社殿は現在国宝となっています。また、第15代将軍慶喜公が隠居後過ごされた邸宅の庭園が保存されており跡地にございます料亭(昨年の大河ドラマ「晴天を衝け」でも紹介されておりました)で名園を愛でながらの懇親会を想定しておりましたが断念致しました。今回は現地開催も中止となりましたが、歴史好きの先生方はコロナ禍が終息しましたらいつの日かこれら名所旧跡にもお出かけ頂ければと思います。

 1月の静岡市は統計的に全国有数の日照時間を有し快晴の日が多いため、学会場としていたグランシップから富士山を眺めて頂ける確率も高いと考えておりました。特に第3会場を想定していた10階の「展望ロビー」からは真正面に富士山がご覧頂けます。ここで風味の異なる静岡茶2種と大量生産ではない本物の安倍川餅を無料でお愉しみ頂く予定としておりましたが、これも叶わぬ夢と消えました。将来的にいつか「冬の」静岡市にお越し頂く機会がございましたら、日本観光地百選コンクールで1位に選ばれた日本平から富士山の絶景をご覧頂くのが一興と思います。同地のホテルでご宿泊あるいはランチタイム・ティータイムを過ごされれば必ずや素晴らしい思い出となること請合いです。お時間がなければ、手軽に日本平夢テラスからご覧頂くのもよいでしょう。また、野趣を求めて歴史ある景観地三保の松原からご覧頂くのも古くからの人気コースです。冬以外ですと富士山はまず見えませんのでご注意ください。小さなお子様連れの先生方には、石垣いちご狩りも1-2月が最盛期でお勧めです。

 お茶とみかんの街、静岡市で富士山を眺めながら活発な討論ができることを楽しみにしておりましたが今回は残念ながら完全WEB方式となりました。コンピューター越しにはなりますが、積極的にご意見を頂戴できれば幸いです。何卒よろしくお願い申し上げます。

2022年1月17日