会長挨拶
第44回日本精神科診断学会
会 長:松永 寿人
(兵庫医科大学 精神科神経科学)
2025年10月4日(土)と5日(日)に、第44回日本精神科診断学会を大阪で開催することとなりました。会 長:松永 寿人
(兵庫医科大学 精神科神経科学)
今大会のテーマは「社会における精神科診断学の現在とこれから─正常と異常のハザマには─」です。今世紀は「心の時代」とも呼ばれ、心の健康についての関心が高まっています。特に現在社会は、益々多様化・複雑化、不透明化しており、不安やストレス要因も多種多様で個別性が著しくなっています。例えば、今回のコロナ感染症流行下において、感染の恐れのみならず、就労や対人関係様式、生活環境などの激変、雇用や収入の不安定化、感染者や医療従事者に向けられた差別や偏見など、現在社会が抱える脆弱性や病理が多面的に露呈しました。さらに個々の事情も重なって、多くの人で不安や抑うつ傾向が高まり、嗜癖性に関わる問題や自殺者の増加も社会的に問題視されました。
一方、このような状況下での臨床場面では、正常域か、あるいは病的すなわち診断閾値を超えた「疾患」水準の状態なのか、治療的に対応すべきか否かなどの決定に難渋することも少なくありません。さらに現時点で診断閾値下、例えば正常域とのグレーゾーンと判断されても、いずれ「疾患」へと発展しうるリスクが高い場合、心理教育や認知行動療法など何らかの対策が望ましい場合もあると考えます。すなわち社会の中で精神科診断学が果たすべき役割を考えた場合、正常と異常の狭間にあるグレーゾーンの診断学的意義を考え、その臨床的有意性を明確化し、予防医学的観点からも必要かつ有効な対応を図ることが重要でしょう。
現在プログラムについては鋭意検討中ですが、これまで本学会が歴史的に積み上げきた学術的貢献、素晴らしい伝統を引き継ぎ、社会における現在そしてこれからの「精神科診断学」の在り方や存在意義を考える充実した内容を目指したいと考えています。
最後に大阪の都心、梅田の地で皆様にお目にかかれますことを切に願い、心から楽しみにしております。どうか活発なご発表、ご討議により、学会を盛り上げ、有意義なものとなりますよう、多くの皆さんのご参加を心からお待ちしております。