ご挨拶
当番世話人 時松 一成
昭和大学医学部 内科学講座 臨床感染症学部門
(昭和大学病院 感染症内科)
MRSA感染症が初めて報告され60年以上、その耐性機序が解明され40年が経ちますが、MRSAはAMR(Antimicrobial resistance)の中でも頻度は最も高く、AMRに関連死の最も多い原因の一つです。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、社会生活、経済活動、医療において大きな変化をもたらしました。このパンデミックを契機に多くの感染症を取り巻く状況も変化しています。特に、MRSA感染症は、疫学や診療、感染対策の変化や多様化が進んでいます。そのような背景から、MRSAフォーラム2023のテーマは「変化するMRSA感染症を考える」としました。
疫学的には、黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの割合は減少傾向を示すものの、市中感染型MRSAが増加しているとの報告があります。海外との人の往来が再開され、毒性の強いMRSAの流入も懸念されています。診療面では、COVID-19の拡大に伴い、遺伝子検出機器が多くの病院に導入され、MRSAの迅速検査が可能になってきました。2022年にTDMガイドラインが改訂され、抗MRSA薬のTDM(Therapeutic drug monitoring)の方法が変わりました。感染対策の面では、COVID-19に対する感染対策の強化のため、病院はもちろん、診療所、在宅医療、高齢者介護施設など、多くの医療施設で手指衛生や個人防護具に対する意識が向上しました。診療報酬においては、2022年に感染防止対策加算から感染対策向上加算感染対策加算に変更されました。これまでの感染対策の活動は継続しつつ、地域連携の重要性が増しました。これまでの診療報酬の改訂は、感染対策や抗菌薬適正使用の推進に大きな影響をもたらしていましたので、今回の改訂でMRSA診療にどのような影響をもたらしているのか検証も必要です。さらに、我が国では「AMR対策アクションプラン」の更新も検討されています。
MRSAフォーラム2023では、MRSA感染症の変貌をとらえ、現在のMRSA感染症診療や感染対策を検証し、これからの研究、診療、対策を考えたいと思います。COVID-19に対する感染対策も行いつつ、対面形式で開催する予定です。会場は、コロナ禍以前、例年開催しておりました「京王プラザホテル」としました。
変化しているMRSA感染症について、現在の検証や、新しい知見、これからの対応や備えを発信できることを期待しております。どうぞ奮って演題をご登録ください。会場で皆様とお会いできるのを楽しみにしております。